2020/02/03 21:49

美術手帳にこんな記事がありました。


東博をはじめとする国立博物館3館が常設展の料金を値上げするそうです。
よく利用する身としては悲しいところですが、「あんなに素晴らしい建物、展示内容だから値上げも仕方ないよね」と思われる方も多いのではないでしょうか。

ただ、記事の末尾を見てください。
公立の博物館は、本来「原則無料」なのです。

これは博物館法(学芸員資格取得の際に勉強した方も多いはず…)の第23条で明記されていることですが、ただし書き以降に「…維持運営のためにやむを得ない事情のある場合は、必要な対価を徴収することができる」とも続けられています。

ほとんどの公立博物館って、有料ですよね。
それはこの「ただし書き」以降の理由、つまり維持管理のためにやむを得ない事情があるため、徴収しているものなのです。

今回の値上げについても、東博は来館者数は増加しているものの、このままでは1人あたりのランニングコストも賄えない、とコメントしています。
生産(顧客)が増えればランニングコストが上昇する製造業のようなものと博物館は違う(顧客が増えてもコストは変わらず、利益が増える)ので「ランニングコスト」という用語は不適切だと思いますが、要は来館者がどんなに増えても、現状の単価設定では赤字が埋まらないと判断したのでしょう。

赤字がでるくらい何にお金が使われているのか。
記事では、値上げ分は文化財の修復や展示室リニューアルなど、「これまで実現できなかった事業」の費用に充てるとしています。

これはもちろんもっともなことですが、それって値上げで実現すべきことなのでしょうか。

絵画や彫刻、本、音楽などの芸術は社会学的には「文化資本」と呼ばれています。
そして、これは他の「資本」へと転換することができるのです。
つまり、芸術に触れて育った子供は、教育レベルが高くなり、最終的な所得も多くなるということです。

これって、まさに国が積極的に推奨すべきことなんですよね。

さらに踏み込んでいえば、所得の低い層を追い出すようなこと(値上げ)を続けてしまうと、博物館が存在する意義さえ揺らいでしまいます。収集管理はコレクターや民間企業に委ねればよいし、研究や修復は美大・芸大で行えばよいのです。

公立の博物館は高級サロンではありません。
博物館法に明記されるように、原則はすべて国が賄うべきです。

ここから先はマニアックになりますが…

国が行う事業について、出ていくお金は「会計検査院」がかなり細かく精査します。
合理性や合目的性など、彼らなりのルールに従って、一円単位で切り詰めようとするのです。

これはもちろん、大切な税金を守るために必要なことですが、その一方で、国のお財布が痛まないことにはかなり無頓着です。

これで想像がつくとは思いますが、「教育」や「文化」という目に見える効果がないものについて、国が新しくお金を出すことは非常に難しく、何かというと国民の負担になってしまうという問題があります。
(余談ですが、文部科学省は会計検査院のすぐ近くにある省庁なので、監査が真っ先に行われる可哀想な立場です)

今回の件も、個人的には「値上げはするべきではない」と考えていますが、文部科学省や東博が悪いわけではないとも考えています。
本来的には「国が負担すべきもの」なのですから、私たち国民が、博物館の必要性について、もっと声を上げるべきことだと考えています。

皆さんはどう思われますでしょうか。
ご意見などあれば、ぜひツイッターからお寄せください。