2020/04/16 21:33

しばらくblogの更新などが滞っておりましたが、やはり新型コロナウイルスに関連し、思うところが多々あったためです。

まずは闘病されている方、医療関係者の皆様にエールをお送りさせていただきたく存じます。

ウイルスに罹患された方のみならず、全国・全世界的にみても、関係しない人のいないほど大きな艱難の時です。

「アートで食っている」「アートで食っていく」人を対象に支援をさせていただいている弊社ですが、このようなときに、我々が何かを発信することは適切なのだろうかと思い悩んでおりました。具体的には、世界的な危機に際して、アートの優先順位はどの程度なのだろうかと、数か月迷い続けておりました。

美術手帳さんなどを見ても、珍しく「東京都の支援策」「自粛と給付」など、経済的・法的な記事ばかりが目に付くようになり、アート業界においてもパニックがそのまま死活問題に直結している現状がよくわかります。
こちらの記事によると、特に音楽分野、フリーランスの方をはじめとして、生活の危機に直面している方も多いとのことで、非常に心を痛めております。

アートに携わる人間としては、このような実態を正しく理解いただき、文化の火を絶やさないためにも各種の支援をいただくことはありがたい限りです。
一方で、アートについては「不要不急」、フリーランスについては「自己責任」という観点から、このような支援策や、特に支援を求めるアーティストの声に対して、ネットを中心に否定的な意見があることも、目にし、耳にしているところです。

はっきり申し上げますと、私も個人的に、医療現場やそれに携わる製造業や運送業、各種小売業などの方々への支援が最優先であるという認識をしております。

私は政治のアナリストではありませんが、このような優先順位に従って、現在も何らかの意思決定がされている最中なのかと思います。
時間がかかるでしょうが、いずれはアーティストも含め、必要な場所に必要な支援をいただけるはずなので、落ち着いて、静観してゆきましょう。

さて、とはいうものの、生活をしてゆかなければなりません。

奇しくも今は外出を自粛している方が多く、暇を持て余している方も多いようです。このような方に娯楽を提供することは、けして不謹慎なことではなく、むしろ不要不急な外出やウイルスの拡散を防止することにつながります。
e-スポーツで有名な「リーグ・オブ・レジェンド」などを制作したライオットゲームズさんなどゲーム会社数社がWHOと共同でキャンペーンを始めたという記事や、ソニーさんが一部ゲームを無料で配信したという記事もあるように、ゲーム業界ではすでに、自宅で外出自粛中の方向けに施策を展開しはじめたようです。

それではアート分野でも、作品や制作過程をそのまま配信することで利益を得たり、または新規顧客を獲得したりということをすればよいのでしょうか。

結論から言うと、現状は不可能であると思います。
(すでに取り組まれている方を否定するものではありません。本稿では、あくまでも一般アーティストのマネタイズに特化した話となります。)
ゲーム業界と異なりこれが難しい理由としては、「プラットフォームの不備」が大きな原因であると考えています。

おそらく、音楽を配信したり、絵画制作のライブドローイングを配信したり…ということを実現する際、その方法は「YouTube」などの既存サービスに限られるのではないでしょうか。そもそも自社で配信用の土台(プラットフォーム)を用意しているゲーム業界との大きな違いは、ここにあるのと考えています。

舞台芸術・クラシック音楽・ロック・油絵・版画・日本画・石彫・金属工芸などなど、一口にアートといっても、その鑑賞のツボは細かく細分化されています。YouTubeなどの配信サービスでも、カメラアングルや音響・編集にこだわればそれぞれの見どころを十分に生かした配信が可能かもしれませんが、やはり専用のプラットフォームにはかないません。

例えば、東博の「e-国宝」を見れば、単純に撮影画像を配信するよりも優れていることがわかると思います。
また、検索の仕方や検索ワードなども均一で、「見やすい」というメリットがあることも、専用プラットフォームの強みです。

ウイルスが何らかの形で収束した際は、保障や給付と合わせて、このようなアート分野に特化した電子的プラットフォームの構築を考えなければならないのではないでしょうか。

話が未来のことに逸れてしまいましたが…
今現在、アーティストやアートに携わるフリーランスの方が自活するためにできることは、「既存のプラットフォームを活用しつつ、訴求力を得ること」に絞られます。

そのためには、上述のとおりそのまま配信しても大きなインパクトは得られないでしょうから、例えば他のアーティストに連絡をとり、コラボ動画にするなど、できるだけ興味を持ってくれそうな方の母数を広げるなどの工夫をすることも一つの手です。

しかし、最も重要なことは「作品⇒配信」とするのではなく、「作品=配信」とすることだと考えています。電子的に公開するということをやむなく行うのではなく、積極的に意味付けすることが重要だということです。
具体的には、配信に付けられたコメントで筋書きが変化するライブ演劇の配信や、画面上に表示されることを意識した作品ばかりを集めた仮想美術館の配信、自粛で家にいる、という鑑賞者を想定したドローイングの配信などです。

普段の作品を展示する際も、額装や場所(ハコモノ)を意識して選択していることかと思いますので、「電子的な配信」も、新しい額装、ハコモノだと、前向きに、かつ有意的に捉えてみるのはいかがでしょうか。